サルでもわかる老子・荘子

『荘子』『老子』をおもしろ・おかしくお伝えします

【荘子】逍遥遊(第九回)

なんじゃ? おまえさん。
まだ わしの話を 信用できんという顔をしておるのぉ。
フォッ、フォッ、フォッ。
よろしい、よろしい。
それじゃあ、もう一つ、例をあげるとしようかのぉ。


実はな、
あの 超有名な
殷の湯王(とうおう)が
賢者の棘先生からお聞きになったというお話も、
わしが今まで話してきたものと同じなのじゃよ。


ほれっ、それは こうじゃ。


「作物や草木が育たない北極の そのまた北には
不思議な海が広がるという。
そこは、人の手の及ばない 神聖な場所らしい。


その海には 魚がおるとされる。
その魚の大きさは、
ゆうに日本列島を超えるらしいが、
実際に、その大きさを正確に知るものは
一人もおらん。
ただ、その魚の名前が鯤(こん)と呼ばれることだけは
伝わっておる。


また、その海には 鳥がおるとされる。
その鳥は鵬(ほう)と呼ばれるらしい。
鵬(ほう)の体は 大山のように巨大で、
その翼は 空高く発達した積乱雲のように巨大である。


鵬(ほう)は その巨大な翼を使って つむじ風を起こし、
つむじ風に乗って 天高くまで上昇する。
その後、この世界の南の果てに向かって
移動を開始するらしい。


この話を耳にした
小鳥さんは、
思わず 笑ってしまった。


『チュン(笑)、チュン(笑)
鵬(ほう)さんは、
どうして そんなに大変なことをするの?


ボクなんか、
う~んと頑張って 飛び上がっても、
数メートルも上がらずに すぐに落下してしまうよ。


ボクは 草むらの間を 飛び回っているだけだけど、
それでも 立派に 飛んでいることには
変わりないよ。


鵬(ほう)さんは、
ホントに どうして そんなに大変なことをするの?
チュン(笑)、チュン(笑)』


住む世界が違うとは、
こういうことである。」

【荘子】逍遥遊(第八回)

一つのことだけ知っているものと
百のことを知っているものとでは
住む世界が違うと思わんか?


一日だけ生きるものと
百年生きるものとでも
住む世界が違うと思わんか?


わしが何を言おうとしておるのか
わかるかのぉ?
もう少し 説明してみようか。


一日しか生きられないキノコは、
当然、
この世には一ヶ月という期間があることを知らんわな。


夏にだけ地上を飛び回り、秋には死んでしまう
セミは、
この地上には夏以外に、春と秋があることを知らんわな。


以上が
一日だけ生きるものの
住む世界じゃ。


中国の江南地方には、
恐ろしく長命な木があるらしいが、
そいつの考える一年と
わしらの考える一年とは
同じものだと思うか?
おそらく、
わしらの千年から二千年が
ようやく そいつの一年にあたるのじゃろ。


大昔には、
もっと とんでもなく長命な木があったらしいぞ。
そいつの場合は、
わしらの考える一万年から二万年を
一年と考えておったんじゃなかろかのぉ。


以上が
百年生きるものの
住む世界じゃ。


さて、
わしが生きた古代中国には、
700歳越えの長寿の老人、
彭祖(ほうそ)さんというかたが
世に知られておった。


わしは、よく、当時の中国の人たちの口から
「彭祖(ほうそ)さんと比べると、
自分は せいぜい100年しか生きられないのかぁ・・・」
と不満をもらす声を聞いたもんじゃが、
それを聞くたびに、
わしは 悲しい気持ちになったのぉ・・・。


なぜ わしが悲しい気持ちになったのか わかるか?
少しでも わかってくれたのなら、
今日、頑張って 話した甲斐(かい)があるというものじゃ。

【荘子】逍遥遊(第七回)

家のすぐそばで
用事をしておるのなら、
途中で お腹がすいたとしても、 
その都度、
家に帰って ご飯を食べりゃ それでええ。




じゃが、電車やバスを利用しなきゃ
行けないようなところに
用事があるときは どうじゃ?


お腹がすくたんびに
わざわざ家に帰ってくるのは 面倒じゃから、
弁当を用意するなどしたほうが 便利じゃ。




じゃぁ、飛行機や新幹線を利用しなきゃ
行けないようなところに
用事がある場合は どうじゃ?


毎日毎日、家から弁当をもって通うようなことをするよりは、
いっそのこと 用事が終わるまで
向こうに住んでしまったほうが 楽じゃろ。




さて、
わしが 何を言おうとしておるか 
おまえさんには わかるじゃろうか?


鵬(ほう)には鵬(ほう)の、
セミや小鳥には セミや小鳥の
立場があるということじゃよ。


それぞれの立場から考えて、
それぞれが ごく当たり前のことをしておる。
ただ それだけのことじゃ。